WBC問題について、プロ野球選手会がどのように考えているかをご説明いたします。
日本プロ野球選手会は、未来の日本プロ野球の発展のために、ワールドベースボールクラシック(WBC)について、主催者であるWBC, Inc.(アメリカのMLBとMLB選手会の共同設立会社)に対して、オリンピックや、FIFAワールドカップのような通常の国際スポーツイベントにおいて、参加国の当然の権利として認められている代表チームのスポンサー権、代表グッズのライセンシング権(商品化権)を、参加国に認めることを求めています。
選手会では、このような代表チームのスポンサー権、日本代表グッズのライセンシング権(商品化権)が日本に認められることにより、次世代のプロ野球選手の育成や日本野球のさらなる普及、発展につなげることを目指しています。
では、何が問題なのか、Q&A型式で、ご説明します。
先行きが見えない大会設立当初、MLBの選手が多く出場してくれない可能性がある状況、大会収支が成り立つか見えない状況から、当初から盛り上がりを見せる可能性が高かった日本マネーを大会収支の中核に据えた戦略がとられたと推測します。
実際、東京ラウンドについては読売新聞事業部に売却され、放映権やスポンサーシップの販売については電通に売却され、2006年には大会売上の約半分に及ぶ金額がこの2社から事前に約束されて提供されました。つまり大会の収支リスクをなくすために日本マネーを先に確保したわけです。
ある意味MLBのビジネスセンスが優れているという部分にもなるわけですが、この中に本来NPBがその価値を保有するべき日本代表に関する価値がどさくさにまぎれて含まれてしまいました。振り返ってみると、MLBは日本代表の価値で大会運営リスクを担保したわけです。
しかし、2つの大会を経て大会の収益構造は安定したものとなっています。チケッティングや放映権収入だけでも十分に収益を生み出すものとなっています。
仮に大会設立当初はこのような異常なことが許されても、このような状態で日本代表の価値を強奪される理由があるとは思いません。
実際は、日本や韓国はトッププロが出場し、全力で戦ってきましたが、アメリカは必ずしも多くのトッププロが参加しない大会となっています。
この姿勢は収支にも現れており、アサヒビールや日本マクドナルドなど、日本の大きな企業がスポンサーになり大会を支えていますが、アメリカは、MLBのレギュラーシーズンへのスポンサーの影響を考えるからか、大会のスポンサーは多くは獲得していません。実に大会の非常に多くのスポンサー収入が日本からということになっており、結果、日本マネーに大きく依存した大会となっています。
実質的にはアサヒビールや日本マクドナルドは日本代表スポンサーであるとも言えますから、事実上日本代表に依存した大会となっているとも言えます。
にもかかわらず、大会利益の分配は、アメリカのMLBとMLB選手会が大会収益の66%を独占する形となっており、日本は代表スポンサー権など、本来認められている権利が認められないことにより、優勝賞金があって初めて黒字になるというようなギリギリの運営を迫られています。
誤解を恐れずいえば、本気で参加して価値を提供している日本代表の価値を本気で参加していないMLBに利益として差し出している大会とみることすらできるわけです。
WBCは、設立当初、新しい国際スポーツイベントであり、選手会としても、まず、この国際的な野球イベントを成功させ、真の野球世界一を決める大会として尊重するため、これまで協力してきました。
第1回大会前から、大会時期、収益分配の不平等、参加国の対戦方式などに問題があったものの、初期段階だったということもあり、このような不合理な条件が適用されてきたのです。
しかし、既に二つの大会を経て、WBCは日本代表ライツがなくても十分に収益力のある構造になっています。
実際、第二回大会は、チケッティングや放映権の収入も大きく増加し、1800万ドルの利益を生んでいます。この金額は日本代表ライツがなくても大会が十分に利益を生み出すことが出来ることを示しています。
これ以上日本代表ライツをWBCに強奪されるという構造を正当化する理由はありません。
アメリカのMLBとMLB選手会は、WBCはIBAF(国際野球連盟)への分配を行っていたり、また野球が盛んでない地域の代表を招待したりするというような、野球振興、普及の国際貢献を行っているわけで、日本も代表ライツを差し出してこれに協力するべきだと主張しています。
しかし、本来、国際貢献を行うのであれば、参加国の経済規模に応じて行うべきであり、アメリカは、日本の5倍とも7倍とも言われるアメリカのメジャーリーグの経済規模で国際貢献を行うべきです。
実際、WBCは、日本マネーに大きく依存した大会となっているわけですから、アメリカは国際貢献を果たしているとはいえず、逆にその意味での国際貢献を代表ライツで大きな価値を提供している日本に押し付けているという構造になっているわけです。
さらに、アメリカのMLBとMLB選手会は、参加国に代表スポンサー権や代表グッズのライセンシング権(商品化権)が認められた場合、次回大会以降の大会運営ができないと説明しています。
しかし、選手会の調査に基づいて、約1800万ドルの利益を出した2009年大会の収支を、参加国に代表スポンサー権や代表グッズのライセンシング権(商品化権)を認める形で再計算しても、なお数百万ドル以上の利益ができることが判明しており、次回大会以降は、主催者であるアメリカのMLBとMLB選手会がほとんどリスクなく、大会運営ができると見込まれます。
選手会では、代表チームのスポンサー権、代表グッズのライセンシング権(商品化権)が日本に認められることにより、次世代のプロ野球選手の育成や日本野球のさらなる普及、発展につなげることを目指しています。
2011年7月に開催されたNPBオーナー会議でも、この問題に関して、NPB12球団が交渉団を結成し、アメリカのMLBやMLB選手会と交渉を行うことが決議されていますので、今後、選手会は、NPB12球団とも協力して、交渉にあたります。
選手会は、これまでと同様、定期的に開催されるWBC運営委員会での交渉のほか、アメリカのMLBやMLB選手会との個別交渉において、今後も交渉を続けていきます。